入学してしばらく経ったある夜、さみしいから一緒に寝ようと藤代が強引に笠井のベッドに入ってきた。最初からざっくばらんなところのある相手だったが、その提案には面食らってしまう。
「はあ?最初平気だったのになんで今更」
「いいじゃん。最近ホームシックになってきたんだよ、俺」
藤代は笠井の傍らにもぐりこんでごそごそ布団を自分のまわりにかき集めてから至近距離で「いい?」と伺いを立てた。いいもなにももう居るじゃないか、落ち着いてくつろいでるじゃないか。とにかく「さみしいから一緒に寝よう」と言ってくる藤代に笠井は驚いていた。もう中学生なのにとか男なのにとかそんな気負いがまったくないのか?「さみしい」という言葉を使うこと自体何か気恥ずかしくて、プレッシャーに負けたような気がすると笠井は思っていたのに。だってもう中学生だぞ、と再度笠井は呟いてみた。聞こえていたらしく藤代がくすりと笑った。「だってさみしかったんだ」。
(それは、俺だって、まあ時々は)
相槌は打たなくてもいいような気がしたので、是の答えのかわりに笠井もまた元通り布団にもぐりこんだ。

そんなわけでもう何週間もひとり用サイズのベッドを毎晩窮屈に使いながら、しかし笠井も抗議する気にはなれないでいた。夏になれば違うだろうが、じんわりする人の体温は心地よい。
ホームシック。笠井は背後にいる彼が実家に置いてきたベッドや部屋はどんなふうだったのだろうと、聞いてみようと毎晩思う。しかしその他の他愛無い話で忘れ、眠くなり、なんとなくまた明日の晩聞けばいいかと思っていまだに聞かないでいる。



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