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これからのことを思うのに麻痺して心が働かない。2月14日の放課後。

これから藤代は告白を断りにいくというので笠井はついてきた。趣味の悪いことに。正確にはいつものとおり部活へ行く途中に返答を済ませるのだ。だから笠井はついてくる。ただし不可避ではない。笠井が「俺は先に行くから」、と一言言えば藤代は止めないだろう。

その女子生徒は、上級生で、お世辞ではなく美人といえた。ことあるごとに藤代にかまうので誰もが彼女がこの下級生に熱を上げていることは知っていたし、冗談のようにだが面と向かって好きだと言ったことも一度ならずある。姿勢がきれいで脚がきれいだ。と笠井は思った。聡い上級生は「藤代のバレンタインデーの放課後の予約」を早々に取っておいていた。

でも振られる。笠井の目の前で藤代が女を振る。

藤代が約束をしたのは図書館に続く校舎裏の渡り廊下だった。笠井は校舎の影に回りそこにしゃがみこんだ。その前をざくざくと庭の砂利を踏んでゴミを捨てに行く生徒が通り、うるせえよ声が聞こえないだろこのバカと口の中でつぶやいた。上級生はすぐにやってきた。


すみませんと藤代が謝った。

しばらくの沈黙の後にがさごそと音がして上級生はじゃあもうここで食べてと言った。高いチョコなの。もったいないでしょ。ゴミは私が捨てるから。
「振られたから甘くないのにしてよかった。かも」

藤代は返事をしない。困り果てているのかもしれない。
(・・・ないな。それはない。)
今も何も考えていないのかもしれない。

しばらくして同じ間隔でいくつも包み紙が開かれていく音がした。突っ立ったままで藤代は黙々と甘くないというチョコレートを平らげていく。笠井はコンクリートにかがんでいる足が痛くなってきた。

背中のほうから聞こえる声だけで二人の様子を知りながら、笠井はそっと目を閉じて、できるだけたくさんのチョコレートを藤代がゆっくり食べますようにと、美しくて足のまっすぐな上級生のために祈った。

これは哀れみのつもりだった。






じゃあ、と言う上級生になんだかもごもごと返事を返してから、藤代はゆっくりと校舎の裏側にいる笠井のところへやってきた。どうして良いかわからなくて正直に笠井は笑った。鼻で。藤代は面倒くさそうに笠井を見た後、目をそらして空を仰いだ。

「あ〜・・・きもちわる」

チョコレートの食べ過ぎで。


上級生が去った後の渡り廊下を通る。水滴の跡が残っている。それを笠井は踏みしめた。ああ今日が熱かったなら。夏なら。夏ならば。足元のコンクリートは日に焼けて落ちた涙は瞬時に蒸発したに違いない。じゅ、と消えたに違いない・・・そんなはずはない。やはり夏も今のように、落ちた涙はそこのところを黒く湿らせて、黙ってるだろう。じっと黙って責める黒い跡。(俺は祈った)涙の跡を踏みしめている笠井を藤代はぼんやりと見ている。口付けた。思った通りにチョコレートの味がする。甘くないのかどうなのか判断がつくかもしれないと藤代の舌を舐めたがわからなかった。チョコレートが血の味に似ている気がする。気分が悪くなってすぐに離れた。藤代は目を伏せる。
全部受け取ったくせに。目の前で藤代は女の思いを断った。そして笠井を選ぶわけではない。何も拒まないくせに。



「なあ結婚しようって言ってみて」

そう言ったときにあまりに自分の喉の奥が乾いていて笠井は驚いた。
藤代の眉間の皺が深くなる。
それに少し救われながら笠井は続けた。

「冗談でいいよ。いつか誰かに言う時の練習でいいから」



「やめろ。気持ち悪い、・・・痛い」
藤代の左手の薬指、その付け根に笠井は親指の爪で赤く筋をつけていた。本当はちぎり取りたい。この衝動は嫉妬だと思っている。ただ何に嫉妬をすれば良いのか。

約束は欲しくない。祈らない。無駄だ。
哀れ過ぎる。


「・・・言ってよ」

藤代の口が開いてその通りの言葉を吐いた。
笠井は空が旋回した気がしてわけもわからずに涙をこぼした。














































こんな藤代も笠井も嫌だ・・・。

カカオ70%のチョコは体に良いらしいです。
二人が中学2年のバレンタインデーはあれですよね
藤代は韓国行ってたんですよネ・・・。
高一とからへんということに・・・しておいてください
(ならこのふたり超進歩ないな!)。





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