藤代誠二彼の敗因は無気力だ。

   晩 夏







暮色を増す空とともに青く薄暗くなってゆく室内
窓の外ではまだアブラゼミが鳴いている
一匹
回避、多分明かりさえつければ口の端が上がった苦笑いのような表情が、斜めからの薄暗い光線で一層よくわかる。自嘲するなら止めればいい。しかし笠井はまるでいたずらを仕掛けるかのように楽しそうに藤代の上に跨り、特に柔らかくも無いベッドはわずかに軋んだ。指先が服の裾を何度か失敗しながら探り当て、無遠慮に進行してくる。昼間の汗がひいて冷えてべたつく腹をのぼってくる。これからの数分の事を思い藤代は顔を背け頭だけベッドの柵の方を向いた。嫌悪をあらわにする藤代は眉間に深く皺を寄せていた。しかし身体を動かす事はしない。

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○


その日俺は笠井が消火器に執着するのを変だと思っていなかった。思えば笠井はその日の朝からそうするつもりだったのだろうけど。
「あれってあの上のピン抜いてから持ち手握ればいいんだよな、出るんだよな中味」
「うん(多分)」
テキトー(笑)だって俺そんな事知らないし。その日消火器についてはそれだけ会話した。で、その日の移動教室の時間、特別教室が面した誰もいない廊下で笠井は消火器二本分の中身を廊下にばらまいたのだ。笠井は突然教科書とかをぱん、と廊下に落としてなんか何のためらいもなく消火器が入っている箱を開けて消火器の中味を廊下とか壁とかに撒き始めた。俺は止める時間すらなかったので呆然として、笠井がわけわかんないことやってるので混乱して声を掛けることも出来なかった。消火器の中身の臭いって甘いんだよ。すごい、きもちわるい甘さ。一本目、続けて二本目、結構な時間がかかったけれど俺は立ちつくしていた。どうしよう、どうしようどうしよう、こいつ、何やってんの、え、何やってんの?どばどばでてくる白い粉末。空気中にも薬品が混じるので息苦しい。気持ち悪い!笠井が気持ち悪い。よっぽど背を向けて逃げようかとも思った。

二本消火器をカラにして転がしたあと、ふりむいた笠井がすごい楽しそうに「にげろ」って呟いて廊下に落とした教科書掴んで俺を追い越して走り出した。

は?
え?

てゆか、ちょっ、何そのはんぱ無い走り方!
追い抜かしてやる☆!!


とか思ってしまったのでその時
笠井ちょっとやばいかも〜とか思ったことを走ってるうちにウッカリ忘れてしまった。あ、それで結局は追い抜かす前に教室についてしまった。・・・ちょっと、ていうか、結構やばいよなあいつ?・・・俺は笠井のことをよく知ってるつもりだった。言っとくけど笠井は人に迷惑をかけるのを嫌う方なんだよ。そうだな、たとえばー、誰かがゴミをゴミ箱に投げ入れそこねてそのまま行ってしまったらそのゴミ拾ってゴミ箱に入れなおすくらい。エライよな〜。・・・よな。うん、そうなんだよ。だから笠井がそういうことをしてしまうことは単純に言ってびっくりしたし、なんか・・・ショックだった。


先生にはばれなかった。

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○


それからしばらくして、一回やった。あいつは、しつこい。うんざりだ。今日は、ええと、あれ、何度目だっけ。思い出せ。思い出せ俺。思い出せ。
身体を捩った拍子に心臓の鼓動が脈として頭に響いた。あきらかに早くて藤代は内心舌打ちをする。快感だと自覚したら流されかけて、呼吸するたびに声が漏れそうになるのを唇を噛んで柵の方を向いて隠す。笠井が息だけで笑っている。自分の様子に笑っているのか笠井自身に笑っているのかわからない。けれどそのどちらかだろうと藤代は思った。乱暴に、単に吐かせるために追い立てられるような愛撫、それでも息は詰まりそうになる。藤代は右腕で両目を覆う。

感触、吐息、体温、動き、動き、感触、と、息、動く、熱い、疼く。疼く。この感じ、かんじ
(あー畜生笑える)
自分の制御を離れて腰が震え、背筋をひび割れさせるような感覚が脳まで達して、閉じて更に腕で押さえた瞼の裏側が光でちかちかした。藤代の喉が鈍い音を立てる。あのねー俺は笠井が手に持つ消火器のノズルから白い粉末が飛び出る様子を思い出していた。ちょっと笑える。笑えねえ?笑えないか。(笑っとけ!)わはは!
不本意な荒い息を整えきらないままの藤代に影をあわせ覗き込むようにして笠井が顔を上げた。暗闇に目がなれていて笠井の表情がよくわかった。隠そうとされない性欲は彼の顔を醜くさせている。また藤代は笠井から目をそらした。窓の外から小さい生き物のうごめく気配がする。
多分俺の想像だけど死にかけの蝉はまだ、ずっと、俺がこんなんされてる間中弱々しく鳴いていたのだ。庭の木の幹から。あ、でも、もう地面に落ちてるのかも。さっきまでその声俺に聞こえてこなかったのに聞こえる、俺の頭の周りだけ今、しんとしている。

なんで俺は流されるんだろう?

圧迫感。普段しない体勢の所為で筋肉も痛い。つーか、
は、吐きそう。


○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○


いつだってお前は俺に勝つ。って、笠井が言った事がある。なんでそんなこと言ったんだっけ?たしか消火器の事があってからだった。でもま、とにかく、ふーん、自覚あるんだ。と、俺は思った。それだけだ。・・・笠井は俺に大抵のテストで勝つんだけども俺達のあいだで重要な事はそれじゃないと笠井も俺も分かってるんだ。わかってるんだ。わかってた。それで俺はちょっと絶望した。俺と笠井に。動かない力の差だ。俺のほうが上うん、これからも俺はお前にいつだって勝つよ。くやしいから。あのときだってあと10メートル、いや5メートルでも、教室まで距離があったらおまえを追い抜いてやった。絶対にな。
どんな意図を込めて俺に手を伸ばすとしても、そうだ、
おまえが何しようと俺は俺で俺以上
でも
以下でも無いんだ
!!!!!!

そう信じさせておいてよそうでないと俺はどうしたらいいかわかんない。

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○


「・・・ぴくぴくしてる」

藤代が自分の下腹を見下ろして呟いた。
すごく卑猥な言いかただなあ、と笠井は思った。







私は笠井君が好きなんですが・・・
ほんとなんですが・・・

いや、ほんとなんですが・・・

・・・字がでかいです萎えます苦笑です笑いすぎです!ア〜

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