Something happened to me yesterday

与えられた単語を適切な形に直して括弧に入れ、訳せ。
He ( fell ) in love just now.
（彼はついさっき恋に落ちた）

Something happened to me yesterday

　タクはさらさらと書いた。タクの髪も柔らかくてさらさらしていた。
　するすると指が滑るのがおもしろくて、おれはタクがおれが詰まった問題にたどり着くまで触り続けることにした。
　さらさらさら。さらさらさら。
　もしもおれがおんなだったら、あ、いや、タクがおんなだったら？これって結構やらしいことかもしんない、けど、おれおとこだし。タクもだし。平気かな、と、ふと気付いたらタクが目線を上げておれをみていた。目が合ってた。あ、やっぱやだったかな、と思った。
「ごめん、」
　言いかけたけどそれは申し訳程度の声で、だからタクの言葉のまえに消えてしまった。俺は誠二が好き。
　それを言ったタクはもうおれの顔なんかみてなくて英語のプリントだった。嘘。プリントなんかじゃなくて辛そうにそらされてた。おれはびっくりして放心してた。せいじって政治じゃないよな今英語だしな、とちょっとだけ考えた。だってありえないだろ。申し訳ないことに手はタクの髪をしっかり握ったままだった。痛かったかもしれない。
　タクはその普通ありえない告白のあとに、ごめんとか気にするなとか忘れろとかやっぱ気にしてとか、キモいだろうけどとか嫌うなとか、おまえは、とか、なんにも言わなかった。おれの想像告白にはでてきたいろんなせりふ。は無かった。おれは握ったままだったタクの髪を放そうかとおもったけどやめた。なんか、ひいてるみたいかもと思った。
「タク、」
　そのまま呼びかけたけどタクはなんにも言わなかった。俺は誠二が好き。言ったあと、下を向いて苦しそうにしてた顔が、だんだん無表情になって、次にきびしい目になって、また読めなくなった。
「タク」
　呼んで、髪を引く。
「…」
　やめろ、て感じにタクの手が右手の上に重なった。びっくりするみたいにちょっと離れて、それからぐっと握られた。斜め前に座っていたタクが腰を浮かしたせいで、ローテーブルががたんと音を立てて揺れた。汗をかいていたグラスのウーロン茶が跳ねてプリントにシミを作った。おれはタクにキスをされた。一瞬だけ押しつけられたタクの口は渇いていて、え、こういう感じなんだ、と、抱きしめられながらおれは思った。握っていたタクの髪は手から逃げて、頬でさらさらと流れていた。タクのはく息がのど元に掛かって、それを意識したら急に息苦しくなって、ていうかタクの体重が重くて、おれはうしろにすっころんだ。いや、すっころんだら痛いから、日頃から鍛えてる腹筋を駆使してなるべくゆっくり転けた。転けてから、うわ、押し倒されたのかも、と思った。
　胸のあたりにかかるタクの重み。ねつ。ちょっとおれの下敷きになった手が痛そうに身じろぐ。けど、タクは離れなかった。おれはタクってあったかいなぁ、とおもって背中に手をまわしてみた。好きだった。
　とても好きだった。
　おれの好きな人はタクだよ。さっき言えば良かった。今言えばいいんじゃん。言おう。タクはちょっと泣いてたのかもしれない。
　おれはにっこりわらってた。
　とても好きだった。

Something happened to me yesterday

　きのう、おれに起こったこと。