呼びとめるか肩を叩いて、
好きですと一言。それで終わるところを
                          ・・・否、
ちょっと俺を殴ってくれ!
(そんで目を覚まさせてちょうだい) 

・・・ああそれで目が覚めるものならば







あと一言で世界が変わる。
過去のアナタに関する全てが意味をたがえる。
ひとつ倒れればすべてが。崩れるように。・・・ドミノ(待って)
と、
そうだ、

呼びとめるか肩を叩いて 
好きです、
なんかで、
そんなので終わるのは



























裏の竹林
風が通りぬけていく。悲鳴のような風音とかすかに竹同士がこすれあう乾いた音が聞こえた。より一層寂しくなって藤代は体育座りの膝に置いた手を組み合わせて溜息を吐いた。少し冷えてきた気がする。雨が降るかもしれない。コンクリートの壁が四角く開けた窓を振りかえると、コンクリートと同じように色のない空。もうひとつ溜息。・・・そしていきなり伸びる。手を後ろにつき、座りこんでいた運動用マットに足を投げ出した。上履き(の、ほとんどつぶれて脱げかけたかかと)でマットを蹴ったくらいでは、予想していたより鈍い音しかしない。


「あ、」
と声を出す。
小さい。

「あーあーあー、あーーー!」


自分の声は異空間にすいこまれたかのような。しんとした空気だけが戻ってきた。

(ちくしょう。)
現在は午前11時すぎ、藤代は体育倉庫に閉じ込められて、2時間目をサボることを余儀なくされていた。


「・・・笠井」

呼んでも返事はないけれどとにかく今は早く来い。



















”呼びとめるか肩を叩いて”、時間を少し止めるのだ。

















ううん、と笠井は唸った。
わざとらしいまでに眉間に皺を寄せて。少しだけこの状況が可笑しくて頬が緩みそうになるからだ。・・・これは感謝すべきなのか、心を入れ替えろと悪友達を諭すべきなのか(徒労に終わるだろうが)。いや感謝とかナシ。明らかにコレはいじめだ。好奇心で人の人生に汚点を残させないで欲しい。・・・。でも。

「・・・何て言おう」


とりあえず自分の状況もよろしくない。自分が無理やり詰め込まれたために崩れてくる閉架図書(廃棄を待つさだめ)の山に足元を侵食されつつある。
ふっと高い位置にある窓が暗くなった。日が翳ってきたらしい。いかにも急ごしらえのベニヤ板に囲まれたプレハブの仮設倉庫にとじこめられて10数分。





















話がある
と笠井は友人二人に呼び出されていた。

(今仮に友人Aと友人Bとしておく。よくしゃべっているほうがAでほとんどうなづくだけなのがBだ。)

話がある?少し緊張して笠井は二人に対峙した。よくつるむのは自分と、藤代と、そしてこのふたり。だからこの場に藤代が居ないことを笠井はいぶかった。

唐突なところから話は切り出された。
「藤代はかっこいいよな」
「・・・うーん?」
まあ、それはそうかもしれない、いやそうだと思う。でも笠井は直感で今同意など意思を表明することを極力避けようと思った。これはどうも、誘導のような気がする。それがどこへの誘導かはわからないが。

「でもな、なんていうの?笠井には特に無防備って言うか」
「そうかな・・・」
「ぶっちゃけ藤代はお前のこと相当好きだと思うよ」

少し、いや、かなり、動悸が早くなったのを笠井は自覚した。不穏なこれはこの空気は。

「ほらウチほとんど男子校だし」
「・・・」
「そういうことは、めずらしくないしおかしくはないわけ」
「・・・」
「俺は、あ、こいつ(友人Bを指しながら)も、応援できる。全部じゃないけど理解できる」
「・・・何が言いたいんだ」
「どんな方向であれ、人と付き合っていくってのは大事なことじゃん」
「・・・うん」
「段階がいろいろあるし?」
「・・・うん」
「藤代との関係も大事な段階があると思うよ」
「・・・・・・・・うん?」
YES,という答えを繰り返すと次も、イエスになりやすい。流されて。

「別にお前は間違ってない。自信を持って藤代と向き合って付き合っていけばいいと思う。状況をうまいこと発展させるには笠井にコレを言ったほうが順調だと思うから俺は話してるわけで」
「ちょっと、」
一旦息を吸い込んで友人Aが意を決した、ように見えたのは笠井の気のせいだったのかもしれない。

「お前、藤代に好きですって告白しろよ。そんでつきあおうって言えよ、ちゃんと」

重力に逆らわず笠井の顎が下がる。つまり笠井はあんぐりと口をあけた。
視界がやや白んだ気がする。ショック過ぎて。

考えろ、と自分の脳に刺激を与えつづける言葉を吐く友人達(おもにA)に、笠井は無意識のうちに背を向けた。

つきあう?誰と。俺と?誰が。俺と。藤代。え?



「嫌だ!」
やっと青くなって笠井は友人達を振りかえった。

予想通りとでも言いたげにAは苦笑して見せる。
「機会を設けないとお前は絶対ずるずるこのまんまいっちゃうね」
「なっ、それでいいじゃん現状維持で!いいじゃん!」
隠していた(否、それすら定かではない)思いを二人に暴かれた上にこの展開、笠井はいまだに頭がついてこない。
「そもそも俺、藤代のこと好きだったの!?」
思わず自問自答を笠井は口にした。そんな状態だ。

確かに好きだ、それは、それは、友人として。

(ただ、ともすれば電流が走るようにして身体の先が、指先やつまさきが、藤代に触れたくてどうしようもなくなることを俺は気付いている。)

だけど。

「現状維持とか言ってお前は内にためこむタイプだろ。いつか爆発してアレコレやっちゃって捕まって報道されてウチの学校も出て俺とかコイツ(B)とかが『いやー
ピー(規制音)君は本当に・・・まじめって言うか・・・。そんなことしそうな人じゃない・・・』とか首から下だけの映像で言うんだよ、プライバシー保護処理された妙に高い声で」
「・・・そんなところまでストーリーが展開してるのか・・・」
「うん」
「とにかく嫌だぞ俺はそんな、そんなのならもう帰る、」

言ってから自分の言葉に笠井はさらに青くなる。
案の定Aは鼻を鳴らして
「帰るったって寮だろ。一緒じゃん」
無情に笑う。

・・・そうだ。彼らもまた同じように寮の住人だ、
「逃げらんないよな」
「うん」
「ふ、二人で完結しないでよ・・・」
2対1で、そして計画的な彼らに笠井は太刀打ちできない。腕を捕らえられた。懇願するように見ても無駄だ。

「というわけでちょっと書架倉庫に入っといてもらいましょう笠井君」
「・・・は!!??」

にっこりとAは続ける。
「すんなりいくならこんなまねはしないけど、どうせ拒否するだろうと思ったからさー。お前ら閉じ込めて逃げらんないようにしてやろうと思ったわけよ。しかも別々に。昼も夜も延々友人で居るしかないお前らの時間をムリにでもちょっと止める必要があると思ってさ。だから先生が厳しくない理科の時間に告白する機会を設けてやったの。半分以上授業出なけりゃもう諦めもつくだろ。授業サボってるっていう非現実感でちょっと突拍子ないこともできるかもしれないし。まー藤代は常に突拍子ないから逆に冷静になっちゃったりしてな!(笑)あ、なんだかんだで時間少ないからさっさと覚悟決めること。言葉とか考えとくと良いと思うよ」

(そんなことまで!!)

饒舌な友人の言葉に気おされてじりじりとさがると、もう背後はまさに、その、閉じ込められる箱。書架倉庫。
「ここ、2時間目に書庫の整頓しにおばーちゃん先生来るから、そのときに出れるからお前」
「ちょっ、そんなの、怪しすぎる俺、ギャーちょっと、マジで、ホントに、本気で怒るから!」
「心外だよなー」
「うん」
声音を変えてもふたりは動じない。笠井、手、離さないとつめるよ、と脅しの言葉を涼しい顔で。どこから出てくるのだ、その行動に対する信念は。
存外日の光が差し込み明るい倉庫に押し込められドアを閉められながら覚えてろよ!と笠井はわめいた。
扉の鍵は外からなら簡単に開けられる。それを簡単に締めながら、

「だって笠井苦しそうなんだもん」

と言う、薄いアルミのドア越しの友人の声はなぜか、今まで聞いた彼のどの声よりもクリアに届いた。

同性が好きな友人が傍らにいるということをすんなり受け入れて、ましてその思いを成就させてやろうなど。その何ステップも飛び越えた行動は。
(誰だ。お前は誰なんだ。)

「大人だろ俺」
そしてこいつも。となりの無口なもう一人を指して、友人Aは笑う。

「違うと思う!」

なんだかんだで笠井は仮閉架図書倉庫に監禁されてしまった。それは、2時間目の少なくとも中ごろまでの期限付きで。

「先生おばあさんだから。お前なら撒けるだろ」


ガラス越しのふたりの表情は優しい。何だあいつらのあの笑顔、慈しみ?笑える。笑うしか・・・。

「あ、

藤代は体育館倉庫に閉じ込めてあるから!」



(犯罪者予備軍め・・・)














↑このもうちょっと前のこと













「・・・いや意味わかんないけど」
「何も言わずに2時間目をサボってください藤代君」
「サボるって・・・それはいいけど、」
「いいんだ・・・ 暗いかもしんないけど理科の教科書は持ってきたから自習してろな」
「え?・・・え?」
「笠井が〜、お前に話があって〜、もうすぐお前を迎えにくるから」
「えええー?なんであの、俺一人倉庫に残されて扉閉められてんの」
「藤代、お前らのためなのこれ。いじめるわけじゃないからねほんと。ほんとに、いじめとか、ほんといじめとかじゃないから」
「なんか連呼されると嘘くせえよ!!」
重たい扉が手際よく閉められる。
「ギャー!!ちょっと何!?カンキン!カンキンじゃん!」
ガンガンと分厚く重い扉を叩きながら、藤代が叫ぶ。

「笠井を待て、藤代」
くぐもった友人の声。
「えっ本気!?」


・・・えーー・・・・・・。
友人たちの足音が遠くなる。藤代は呆然と倉庫の内側で立ちつくしていた。


















「好きです」・・・なんて、そんなのでは















長閑な足音が近づき、軽いドアが開いた。・・・今だ、と初老の女教師が倉庫の奥に歩を進めてから、笠井は倉庫から飛び出した。
ギャッだかヒッだか言う声と「・・・二年生ね!」
(アタリです先生。すごいなあ。・・・あ、上履きの色か)

少しだけ声に笑いが含まれていたのは気のせいだろうか。





笠井は心をこめて全力疾走した。本気で逃げるなんて久しぶりだ。やはり少し笑い出したい。

しんとした体育館に、笠井は息を切らせて駆け込んだ。引っ掛けてあるだけの簡単な鍵を外して、倉庫を開ける。

藤代は薄い教科書を丸めて手に持ちうなだれていた。さながらいじめられたらこんなふう、な。
笠井は手を引いてほこりっぽい倉庫から藤代を連れ出した。


先に口を開いたのは藤代。
「・・・笠井が俺に話があるって」
「ないよ」
「嘘だ!嘘ついてる今!目逸らした!」
(なんだ元気じゃん)
「ついてません!ない!ほらめちゃくちゃ目を見てるだろ!」
「じゃあなんなんだよこの状況は」
「・・・」
「何今の間は!知ってるんだろ」
吐けーーと言いながら藤代は笠井を揺さぶった。冗談だろうが力任せに。
「ちょっ、と、待て、」
呼吸だけでも確保しようと笠井は放っておくと締め上げられかねない自分のネクタイを握り締めた。
「なんなんだよ!俺いじめられっこじゃん!?」
閉じ込められて内緒話されてるんじゃんなんなの悲しい。
「閉じ込められてたのは俺もなんだけど・・・」
「ホントのこと言えよ」

じっと、つい引きこまれる真っ黒な瞳が笠井を捕らえる。ああいっそ全部話したほうが楽になる。彼の目は自白を選ばせるようなそれだ。
(刑事に向いてるんじゃないか・・・)

「・・・待て、ちょっと、早まるな、考えを改めろ」
「何それ」
まず藤代の双眸を手で覆い自分も目をつぶってやっと、視覚から脳味噌に直接くる呪縛から逃れて笠井は逆に藤代を諭した。
「世の中にはお前がまだ知らなくていいことが、」
「・・・無邪気にエロ話を振られた親みたいな反応・・・」
遠からず、みたいな、モゴモゴと笠井はつぶやく。

黙り込む笠井に藤代は溜息をついた。
「もういいよ・・・」
深く息を吐いてその場に座りこんだ藤代のつむじが悲しげだ。
(あ、泣き落とし?)・・・新しくはない。でも、これは笠井にとっては百発百中。自覚しているならたちが悪い。
同じように笠井はしゃがんで、藤代の頭を撫でた。
「あのー、まあ、あの、方法はあれだけどあいつらは俺らのことを思って、」
「そんなのはわかってる」

(お、)

「ただお前だけが状況把握していて俺が知らないのはずるい」
ずるくない?
正論だ。笠井はまたあの目にとらえられる。
「理由を教えろ」
脅迫というには緩いのに笠井はどうも心が痛んで困る。

2時間目はまだあと10分ある。




「俺、藤代のこと、大事だよ」
ひとりごとのように笠井は言った。藤代の目が大きく見開かれた。
「え、慰められてる?」
俺やっぱいじめにあってるんじゃ・・・。藤代はそんなことを言いながらも笑った。

藤代の頭を撫でる。本当は衝動でうずく指先で。うずくのは見えない光線が思いを届けているからかもしれない。届けばいい。言葉にするとどうしても歪んでしまうのでこのまま全部。

藤代も両手を伸ばして笠井の頭を抱えた。額が合わさる。藤代が笑む。
きっと思いは伝わってはいない。でもあと数分、このままでいられるくらいの思いは口にできたと笠井は思う。チャイムが鳴るまでの数分。



しかしその前に誰も居ないはずの体育館に二つ足音が生まれた。倉庫のある出入り口付近とは逆方向の舞台あたり。

「・・・隠れてやがったな・・・」
それらは自分達を別々に監禁した友人たちのもので、のろのろと舞台から降りてくる彼らこそ不機嫌そうに見えた。友人Aと笠井がギリギリまで近づき対峙しとうとうふたりは頭突きした。

「お前らは・・・お前はほんともう笠井・・・ほんとにここまで煮え切らないやつだとは思わなかったよ」
「あーあ呼び出し確定だな。つるんでる四人が一時間まるまるサボって何やってたのか聞かれるな〜説明はお前がしろ」
「なー俺いまだに何やってたのかわかってないんでーすーけーどー!」
「「ちょっと黙ってろ藤代話がこじれるから」」
「うん」
「・・・ほんとにむかついてきた・・・」
「大体お前らな、っあー思い出してきたお前らこないだも教室の隅でイチャイチャしててだな」
「記憶にない」
「きすしてました!」
「・・・あれはなんてゆうの、甘噛みだな。口じゃなかったしな」
「余計たち悪くない?じゃーあれ、お前らの日常茶飯事か。はっはっはーお前ら寮で何やってんだか恐ろしいんだよ!見えないものは恐ろしいんだよ!もっとわかりやすく目に見える形にしてほしいわけだよ俺はよ!!!
「抽象的過ぎてわからないだろ藤代。それでいいからな」
「馬鹿にされてない俺」
「うん」
ガッ、とスピーカーが鳴って、放送が入った。「1年3、4組の体育は体育館です」

どうやら雨が降るらしい。どうやらわめいているうちにチャイムが鳴ったらしい。四人は否応なく、休み時間でざわつき始めた現実へ押し戻された。疲れとともに。







呼びとめるか肩を叩いて時間を止めて崩れ変わるのはこの世界 、待って
勿体無い崩すには、だから。






































妄想絵が出てきます・・・



 




















































背景画像(はずかしついでにピンク)の左がA(眼鏡)で右がB(野球部補欠) 身長はB>藤代>A>笠井 Bは「うん」しか言ってない・・・です ふたりは笠藤の平然としたイチャイチャに辟易しているのです。かわいそうに。
・・・あー妄想に歯止めがかからなかった結果がコレ。ウチの笠藤SSのほとんどが暗いのは、笠井と藤代二人しか登場しない閉塞感からじゃないかと思いました。他者が入るとギャグになるヨ・・・

イチからつくりましたキャラ出すくらいならSSに先輩方(渋沢と三上あたり)出せば良いじゃないかと思うのですがはっはっは・・・いやーほんとはずかしいなーはずかしい。うんはずかしい・・・。


























どうもすみません。

















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