止血




藤代の手のひらが両方とも冷たくて大きくて、言ったのは俺だけれども怯んでしまった。
怯んだ拍子に頭を引こうとしたけれど、首が固定されているからそれはできなくて、背骨が軋んだ。
骨が軋む小さな破裂音。痛い。圧迫される首の動脈。恐怖感が湧く。藤代の手は手加減してある一定以上の力は加えず、どうもこれ以上俺の首を絞る気はなさそうだった。それでも俺の首は圧迫されつづけて顔の皮膚とかがびりびりした。びりびり。何でこんなことになってるんだっけ?

あ、あ、そうだ帰ってこいとか言っちゃったんだった。遠征に行っていた藤代をわざわざ呼び戻したんだった。試合とかそういう重要な行事は終了済みで、あとは先輩とか監督とかコーチとか含めて食事でもという感じだったらしい。それがわかっていたから俺は藤代に帰って来いとか言っちゃったんだけど。正確には帰ってきてよとか、頼み込んで電話口で死にそうな声を出して、一方的に電話を切った。電話を切ったあと俺は妙に冷静になってしまって、すっきりして談話室でテレビとか見ちゃって、藤代が急いで冷たい手をして深刻な顔して帰ってきたときには電話した事も忘れてたくらいだった、素で。藤代は結構無理矢理帰ってきたみたいで、先生とか先輩とかに怒られまくったって。信用なくすしね。電車とかずっと遅いとかイライラして乗ってたらしい。結構な遠くからの電車賃とか自腹だしなあ。それでも帰ってきちゃったんだ、藤代。愛だね愛。愛だね、とか自分で思ってしまった俺がすごくバカらしくて俺はもうなんか全部いやになってしまった。いやだいやだいやだった、で、
「バカだ・・・」
とか冗談抜きで言ってしまった。藤代に。
「ふざけんなよ」
藤代の心底むかついてるかんじの声。俺はもうそれだけで物凄く後悔してというか、・・・でもどっかで、突然どっかで藤代についてあきれてしまった。あと自分についてもあきれてしまってたんだと思う。もういいやとか思ってしまった。なんで?なんでだろう?
「あーごめん、ごめんごめんごめん。俺サイテーもう俺死んだ方がまし!殺してよ」


とか言ったらなんかなんの躊躇いもなく藤代は俺の前に立ち上がって俺の首に両手を掛け。こう俺の首は締められているわけです今現在。
そりゃむかつくわな。


くるしい。ちょっとの圧迫感だけど確実に俺の血は藤代の手の下、そこで滞って、どくんどくんと苦し紛れに脈打った。あ、喉とか頭とかしびれてくる。藤代の手の冷たさも今はもうわからない。
しぬ?しなない? 
絶対死なないけど怖かった。

俺の首をいいように締めている藤代君はとても怒っていた。わ〜あこわい。
わ〜あかっこいい〜(ちょっと素)。わあ、ほんとちょっと気持ち悪くなってきたんですけど、ね、藤代君。こいつまったく殺人者になる気なんてないよ。なのに俺の血をせきとめやがってこん畜生。バ〜カバ〜カ。

視界がぼやける。あれ、死ぬの?とか、嘘です、泣いてしまいました。
「早く死ねば」
仏頂面で拗ねたように藤代が言う。
「・・・むかつく」
「ちゃんと望みどおりにしてやってんじゃん」
「・・・む」
かつく、声が出ない。声が出ないとか認識するのもだるい気持ち悪い、喉が狭い。
面白いほど大粒の涙が落ちた。これ他の人が見たら確実に藤代が捕まるよな。
藤代は両手をそのままにして首をひねって俺の耳に言葉を吹き込んだ。
「好きだよ」
その言葉は困ってるようでむかついてるようで拗ねているようで、しかし癪な事にだ。この言葉さえ言えばお前満足するだろ?そんな自信みたいなものが確実に混じっていた。
今度こそ俺は心底むかついた。何様なのお前は藤代?でもおかしなことに多分こういう俺の中をめぐる血に乗って流れる感情がせきとめられて麻痺して、麻痺してたんだきっと。
両手を伸ばして藤代の頭を抱くとあっけなく奴の首は曲がって、キス、しそこねて勢い良すぎてお互い歯がぶつかった。痛い。

後書き→

みじかい!SSSですな・・・。
高田の笠藤観を表せられるのは
文章の方かもしれない・・・です。
殺伐しやすい・・・(造語)
なんでか遠征に行ってない笠井とか、
いろいろおかしいですけどそこらへんはもう・・・(何だ)
所要時間二時間・・・ワ。後悔しそう。

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