I DON’T KNOW。答えはいつか出るとしても今欲しくて今手に入れたくて、今手に入れないと終わってしまいそうです。世の中には答えが出るのが間に合わなくて生きるのを不意に止めてしまった人たちがいっぱいいっぱいいると思います。

























切羽詰った顔で笠井が言った。
「一緒にいてくれる?」





アイドンノウ。














起き上がるのがつらい。頭が痛い。今起き上がったら死ぬ!というくらい頑固に瞼が開くことを拒絶していた。ありじごくの壁を這い登ろうとするように、意識を浮上させようとするとまたすぐに眠りの底へずるずると落ちていってしまう。
小さく唸って、藤代は寝返りをうった。
「遅くまでゲームしてるからだからな」
聞こえよがしのため息と、そんな声が頭上から降ってきた。なぜか安心して、覚醒しようとあがくのを止めて藤代はまた眠りに落ちていった。








ようやく藤代はしっかりと目を開けた。
時間は
11時。

「!!!?」

反射的に起き上がるも、どうあがいたって大遅刻だ。しばらく呆然としてから藤代は床に転がっている携帯を拾い上げて笠井にメールを打った。

笠井のバカ!なんで起こしてくれないんだよ!

(いつもなら絶対に起こしてくれるのに!)
ひとりだけ学校に行ったらしいルームメート兼クラスメートに送信、そしてイライラと携帯をもてあそび、ベッドに放り投げ、ため息とともに布団に頭を沈めた。

冬のもう昼近い陽射しが窓からやわらかく入ってきていた。・・・静かだ。むなしい。窓の外から小鳥の細かで軽い鳴き声が聞こえる。

(俺そんなに爆睡してたのかな・・・)
にわかに、勢いに任せてメールを打った事を藤代は後悔し始めた。起きなかった藤代を、具合が悪いのだと判断して笠井はそっとしておいてくれたのかもしれない。そういえば目覚ましは止められている。
もう一度メールを打ちなおそうか。

・・・藤代は結局、同じクラスの別の友人にメールを打った。返ってきたメールは予想外のものだった。

やっぱお前らズル休みか!

ズルじゃねえよ!・・・いや、でも元気なんだからズルか。
意味のない絵文字に彩られたバカバカしいメールに思わず吹き出す。その友人が先生の視線を気にしながら机の下に携帯を入れて背中を丸めてコソコソと返事を打っているところを想像して笑った。

そしてはたと気付く。
(・・・お前ら?)

お前らって?誰か他にも休んでるやつ居んの?

は〜〜?笠井もだろーが!



無意味に絵文字の多用されたメールがまたすぐに返ってきた。


・・・え?
・・・笠井も?
思わず藤代は誰もいない自分(と笠井)の部屋を見渡した。
学校に行かずにあいつはどこに行ったんだろう。











ノックの音で浅い眠りから覚めた。
することがなくて、ぼっとしていたらまた寝てしまっていたらしい。
時間は12時半だった。・・・寮母さんだろうか?ズル休みがばれたくなくて藤代は寝たふりを決め込もうと息を詰めた。


「・・・藤代。俺」
聞き覚えのある声で藤代はがばりと起き上がった。
「・・・笠井!?」

ドアを開けると笠井が素早く入り込み、後ろ手にドアを閉めた。外を歩いてきたらしく冬の空気で頬が紅くなっていた。笠井と一緒に冷やりとした温度も入ってくる。

「お前、学校行かずにどこ行ってたんだよ!」
さっきのうしろめたさも自分が寝こけていたことも棚に上げて藤代が笠井を問いただす。笠井は寒さと乾燥のせいでいつもより輝きの多い目で藤代を一瞥すると、目をすっと細めた。
「・・・ズル休み」
に、と奴は笑った。

(こんな笑い方だったっけ?笠井)

落ち着き無く笠井は藤代に外へ行こうと言った。
「俺たち二人とも休んでることになってるから。多分もうすぐ寮母さんくるし」

(それだけが理由なのか?)なぜかひどく笠井は切羽詰っていた。何かに背を押されるように藤代は頷き、コートを着込んだ。











ぶえっくしょい!
藤代は寒さを叱り付けるようにくしゃみをする。あーちくしょー、と続けるとおっさんくさい、と笠井が笑った。寒い、と言うと冬だからな、と返される。笠井はそっけない。でもいつも隣を同じ速さで歩く。

線路沿いを歩いていた。遮断機は黙り込んでいる。住宅地の端っこのこのへんは人通りが少ない。カーンカーンカーン、藤代は踏み切りの音を口真似しながらぶらぶらと歩く速度を落とし、かたわらのどぶを覗き込んだ。何か生きものがいるかもしれない、と。しかし凝視してもくすんだオレンジの泥と薄い水の流れしか見えなかった。

笠井は先に線路を横断しかけていた。そして、ごく普通にひょいと横にそれた。横断するために作られたコンクリートの道から降り、線路に立ったのだ。そして遠くを見ているようだった。それを見た藤代の中にも好奇心が沸き起こり、すばらしい瞬発力で駆け寄って笠井の横に立ち、同じように遠くを眺めてみた。

「・・・うお〜〜!」

見たことのないまっすぐな道が、石の道が、二本のレールが、ずっとまっすぐ続いていた。
きゅう、と心臓が押さえつけられて、切ないような、苦しいような、あと、少し怖いと思った。

(だって一応ここは立っちゃいけないような気がしたし。だって危ないじゃん。ちょっと悪い事をしている気分だったのだ。それから、ばかばかしいけど、何か手違いが起こってここにこのまま、例えばいきなり足が動かなくなるとかして(ありえね〜)電車が来ても動けなくて轢かれちゃうんじゃないかとか思って)

「すげー!こんなとこにこんなまっすぐな道あるんだ!」
見た事がないのは当然だ。なぜなら人が通る道じゃないからだ。こんなにまっすぐな道。他の、ここに建っていい何よりも優先されてまっすぐ伸びている道。

「スタンド・バイ・ミー!」
藤代は一年のときに英語の時間に見た映画を思い出して言った。
「・・・そんなのあったな」
「死体探しに行くやつ」
「線路はどこで出てきたっけ?」
「線路をずっと歩いていくんじゃなかったっけ?」


突然笠井が藤代の右手を握った。手を握った、というより、掴んだ、というような。その手の冷たさにも、行動にも少しひるんで、藤代は笠井を振り向いた。

「一緒にいてくれる?」

(笠井はまっすぐな線路をちっともすごいと思っていなかった。笠井、切なそうにしていた。なんで?)




心臓が押さえつけられて、せつないような、くるしいような、あとすこしこわいとおもった







いっしょに



どんどん嫌な感じの、気付いていくような感覚、このままここにいたら、
(っていうかもうすぐあの、ずっと先の、線路折れてる向こうから、見えるんじゃないか)




カンカンカンカン



警報機が鳴る、頭の中で。
笠井は俺の目を覗き込んで、俺の中のわずかな動きも見逃すまいとしている。(例えば恐怖とか、嫌悪とか?)

俺は笠井を裏切りたくなかったのだ。今目を逸らしたりしたら笠井は傷付く、そんな気がした。予感がした。ほぼ確信だ。



本当はこうしている間も、これからここを通るはずの電車はどこかからここに向かって近付いてきているはずだ。まだ見えないけれど確実に。ここで俺が黙り込んで、ここで笠井が俺の目を覗き込んでいる間も。ひたすら近付いてくる電車。一緒にいてくれる?その言葉に答えなくても、今、俺たちは一緒にいて、俺が答えを出す前に、電車がここに来てしまったら、俺は一緒にいたことになるんじゃなかろうか、笠井と俺の終わりまで。終わりまで。答えが間に合わなかったら。


「つまりそれは」
「いっしょに、ここで、・・・電車に、轢かれてくれる?」



笠井はとてもわかりやすく藤代に言った。







どうして?どうして?どうして?














カーンカーンカーンカーン
俺はとうとう、うん、と言った。理由がわからなくても、俺がうんと言う理由が無くても、とにかく間に合わなくなるのが嫌だった。このまま間に合わなくて、答えを出せずに死んだら死んでも死にきれない。ああ。

ともだちっていいね


笠井がにこって笑った。
あ。うん。それだよ、お前の笑い方は。




笠井は本当に乱暴に俺の腕をぐいっと引っ張って線路から外れようとした。だけど、俺の足が動かなかった。恐怖からか。だけど俺は思うのだ。本当に覚悟を決めてたんだよと。藤代、もういいよ。笠井は俺が動かなかったのでちょっとつんのめって、俺に話し掛けた。そして引っ張る。でも俺は動かない。藤代、とまた笠井が呼ぶ。でもまだ動けない。
「藤代、ごめん、わかったから」
(でもうごけない)
「・・・藤代、ふざけないで、ごめん、悪かったから」
(うごけな)


電車の
キミドリ色が見える カーンカーンカーンカーン
「・・・動けな・・・っ」
「え」
「動けない」
「・・・っ」
「かさいっ・・・」





























































「今更だけどなんで俺起こしてくれなかったわけ」
「俺学校に行かないつもりだったし。なのにお前起こしてもなあとか思って。それにお前起こしたら逆に面倒だったし」
俺学校に行かないつもりだったし。その言葉を聞いて内臓が冷えるような感覚に襲われて藤代は泣きたくなった。

寮の部屋に戻って、ふたりはへたりこむように床に座っていた。
「・・・本当は、俺、線路の上で藤代のメール見たんだ」
ぽつりと笠井が言う。あのあまりにも日常的なメール。藤代は何とも返さなかった。何と返せばいいのか分からなかった。
「・・・死にたかったんだけど、・・・」
一人でいるのは嫌だった。





自分勝手な奴だ。俺が間に合わなかったら一人で終わってしまうところだったなんて。間に合わなかったら。


ぞっとして藤代は笠井を抱き締める。笠井はまた藤代にキスをした。

(線路から降りれなかったとき、電車に背を向けるようにして立った笠井は俺にキスをした。あまりにもびっくりしたので俺は半歩後ろによろけてしまった。で、そっからは普通に足が動いたというわけです)


「なんで死にたかったんだよ」
「・・・なんでだろう。それもわかんない」
なんで生きてんのかも分からなくなっちゃった、のかな
(俺はなんで笠井が分からなくなっちゃったのか分からないよ)


「死にたかったんだ。でも一人じゃ嫌だった。でも二人じゃ死にたくなくなった」

「・・・なんでだろう」
笠井は笑う。
「知らないよ」
藤代は仏頂面でそう言い、笠井を更にきつく抱き締めた。




































後書き

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