誰かが頭の中で叫んだ気がして目が覚めた。





もうそちこちで足音がしていた。副長からの通達により、3日後・・・ああもうすでに2日後の仕事が伝えられた。屯所は騒がしい。地下鉄、交流戦のあるスポーツスタジアム、大手燃料工場のテロによる人的経済的被害を食いとめるために。もっともそれらが実行可能かは疑わしい。のにほっておけないのが。チクショウ。重い気持ちで三時間前這いこんだばかりの布団をはねた。


昨日のよどんだ空気が消えないままの早朝の会議にて、当日の配置人数振り分けが伝達された。当日、俺は屯所で”待機”。

とりあえず俺は監察方では長なわけであるから、部下(というほど違いは無いが)から驚きの視線が来る。いたたまれない。

以上、解散。


伸びとあくびと気遣わしげな空気から逃れて、俺が呼んで追うのにわかっているくせに足を止めない副長。

「お前の信用がねえってことだ」
廊下を折れて縁側に出てようよう振りかえった副長は、明らかな睡眠不足とニコチン過多による、肌色は象牙色に近い。そしてこともなげに傷つく事を言う!
「嘘はついてないって実証されたじゃないですか!」
「実証ってなんだよ。ともかく今回の事はお前がつかんできた情報でもねえし。要るのは情報よか戦力だ。」
オイ役立たず。
聞く耳を持たず、憎たらしい笑顔を残して副長は俺の肩を押しのけて庭へ降りた。
「副長ッ!」

朝露の降りた庭を歩いていく。庭の中ほどまで歩を進めたとき砂利から青い羽をしたちいさな虫達がわっと飛び立った。副長も俺もギョっとして立ち止まる。

「前は墓のほうにおったんだけどな、この虫」

庭木の陰の石、副長のサボりスペースには先客が居た。斉藤隊長。血色の悪い彼を棺おけから起こしたのは誰だ・・・つまり俺は斎藤さんの存在だけでぞっとしたのである。
あ、くたびれたらここにいつもお座りになってられる。じゃあどうぞ〜なんて副長に場所を譲る彼ではない。副長は立ったまま煙草に火をつけた。
「墓のほう・・・って」
「朝に散歩するといたよ。どこかの星のものだろうか」
斉藤隊長って散歩するんですか。墓を。

(なあ、青い羽虫よ。屯所が墓だってことじゃあないだろうなァ)墓場になるよと虫の知らせ?

俺はすっかり気弱になっている。


「・・・墓なんか近くにあるのか」
紫煙を吐ききってから副長が口を開いた。本当に知らない風だった。

「知らないんですか!?墓だの寺だの神社だの洗っとけって監察に言ったじゃないですか、このあいだ」
「それでオマエらから墓に素性のわからねぇ浪人どもがたむろしてたって報告はなかったじゃねえか」
いやー信頼しきってるからね。監察の情報。 と、無表情で言われても。
「だから場所なんて知らねえ」

俺は知ってしまったので、夕暮れ以降は裏口の方は通らない。屯所の北に向いた裏口のむこうはうっそうとした森、ではなく森と見まごう庭を持つ邸宅である。そして通りを隔てて将軍家ゆかりだという菩提寺、それから件の墓地。朽ちかけた石塔から写真入りの変形がたまで老いも若きも、正直者も不届き者も眠っているであろうごったな墓を見守るその寺の住職はテロなんぞの思想とは無縁なのっぽでぼんやりした人でして。少しだけ探りを入れるつもりが、その住職にうっかりご馳走になったきんつばと煎茶の味を思い出しながら俺は笑った。学生さん、と何の疑いも無く呼んでくれたっけ。

そう平和なモンでした。


かたや、われらが副長は、今少し黙っただけでもう仕事の頭になっている。頭の中で将棋の駒がかちゃかちゃいっている。結局のところ彼の算段は力任せになることもあるが。瞳孔が開いて、口元には薄い笑み。

「副長はひとさまの墓だって斬って、けろっとしてんだろなあ」

「・・・どんな乱暴者だ俺は」
「頼もしいって言ってんです」
ケンカに勝つためならね。

「最近は墓石も天人の星のものが安いらしいよ」
価値が違うのかもしれん。斎藤さんは妙に納得したふうにそうつぶやいた。そんな斉藤隊長はどんな墓に入りたいですか。(そんな話題、俺ったら新しい!)




でも墓なんてなくていいなんて言われたらなんだかなあ、なので聞かなかった。


朝日が昇ってきた。

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